『流浪の月』読了
事実と真実は違う
思い込みの優しさというナイフで心を切り裂いていく
誰もわかってくれないという孤独感から解放してくれる新しい人間関係を描いた小説だ
主人公は更紗という女性だ
自由な家庭で生まれ育つも、小さい頃に父を亡くし、母は家を出て行った
そうして預けられた叔母の家では、自由な今までの常識が非常識となる
世間的には叔母の家が常識だ
だが、自分にとっての常識はかつて育ってきた幸せなひとときなのだ
その息苦しさから解放されたいと思っていた最中に手を差し伸べてくれたのは、いつも公園に来ていた文という大学生だった
文について行くことは、更紗が辛さから逃げることを意味する
だが、世間的に見れば文は誘拐犯となる
文は逮捕され、短い間の更紗の逃避は終わる
更紗は誘拐被害者として心身に辛い経験をしたと「勝手に」思われて、気を遣われながら生活することになる
時は流れ、更紗には恋人ができた
だが、恋人との関係は彼氏側の問題によってうまくいかなくなる
そんな中で文と再開する
文にも同棲する彼女がいた
お互いがお互いを拠り所としていた過去が蘇り、友達ではなく、恋人同士でもない新しい人間関係を築くことになる
最初の感想としては、理解されないことの孤独感は果てしないものがあるなということ
自分は、小説内の登場人物はどの孤独感を抱いたことはない
この本のような事例はあまりないかもしれないが、これほどに孤独感を抱く人もいるんだろうなと感じた
一方で、そのような人たちに手を差し伸べることはできるのか、そもそも手を差し伸べていいのだろうかということも感じた
良かれと思った親切は、相手にとっては全く嬉しくないことなのかもしれない
でも、相手のバックグラウンドを知ることはできないし、手を差し伸べないことが最善手だともわからない
誰もが良かれと思って親切にしてしまう
そんな歯痒さがところどころで感じられる作品だった
大きな心の揺さぶりがあるわけでもない
でも、不気味で小さな揺さぶりが長く続き、少しずつ心の奥底を刺激してくるような作品だ
10点満点で8.5点
ミステリーではない系統の作品で、久しぶりに面白いと感じた